The Issue about Second Queen and Count's Heir 2 
側妃騒動と伯爵家令息 2

 

 真相はしかし、割とあっさり分かってしまった。自分の勘が良いのを自分でも褒めるべきだろう。分かってしまった理由はずばり、側妃となる人物と実際に対面したことだ。国王の意思はかなり強固で、しかも並び立たされる羽目になるはずの王妃が支持しているのだから、反対派の抵抗も上手くいかないのは当然である。なんなら自分が保証人になる、とまで王妃は言い出したのだ。その熱の入れように、周りはむしろ怪しむ目を向け始めた。
 側妃はいったいどういう素性の人物だろう。
 その問いに、王妃は延々と解説をつけてみせた。昔とてもお世話になった人である。まだクロイツェルに自分がいたころ、森で迷子になったことがあった。きらびやかな貴族の装束を着て森をうろうろ彷徨っているうら若き少女が格好の餌食であることは当然で、賊に襲われかけたところを颯爽と助けてくれた狩人の一家がいた。側妃はその一家の娘。お礼も兼ねて、彼女の家にはその後もちょくちょく顔を出しに行っていて、彼女とはかなり親しい間柄。しかしつい最近、彼女は天涯孤独となり、ここ数年の内乱やら紛争やらもあって非常に身が危険な状態。そういうわけで国王にお願いして様子を見に行ってみようということになったら、王妃一人で出かけるのもなんなので国王と一緒に行くことになった。結果、陛下は彼女と意気投合。自分としても、彼女と一緒にいられて身柄の安全を確保できるなら願ってもないし、彼女となら妃として並び立っても全然かまわない。以上。
 ものすごい作り話だ、とウォーレンは思ったものだった。細かいところまで良く作られているのも、肝心なところが伏せてあるように思えるのも。そして、あまりによくできた話なので、ぴんと来たのだ。
 多分、一部は真実だ。まず側妃と親しいのは間違いない。なぜそんな下層の民と親しくなったのか、きっかけはいろいろ疑問だが。そして最後の、身柄の安全を確保できるなら願ってもない、というのと彼女となら妃として並び立っても全然かまわない、これも真実だろう。そして残りの解説、これも真実になぞらえて作られた作り話であることが、ウォーレンには分かった。リアンノンの存在がこの物語にどう絡むのか、それが分からなかったけれど。

 結局国のトップと妃が押す案なので、反対派も反対しきれずに、結局押し通る形で側妃擁立が決定してしまった。ウォーレンの父は怒っていた。当然だろう。彼の父は側妃断固反対派だった。……その父が、自分とリアンノンの件を知ったらどういう顔をするのか、想像に難くない。
 そして側妃お披露目の席で、ウォーレンは気付いてしまったのだった。
(あ……)
 リアンノンと、共通点があった。見た目もそうだったし、雰囲気、しぐさ、言葉の使い方、細かなところに。それでわかった。いつもリアンノンを間近で見ていた自分だからこそ気付いたともいえる。一つ気付いてしまえば、そこから推理を発展させるのは簡単だった。
 そして気付いてしまったことを、ウォーレンは黙ってはいれなかった。自分の口がそんなに軽くはないという自信はあるが、万が一ということがある。リアンノンを陥れる本人にはなりたくなかったし、ウォーレンは自分の忠誠心がなかなかのものだという自負があったのだ。だからこそ、自分が知ってしまったことを、相手に教えておきたかったのだ。相手が知っていることを知らないというのは、秘密を持っている者にとって恐怖以外の何物でもない。
 そして、始めに打ち明ける相手は決まっていた。

「どうしたの。すぐに会いたいだなんて」
 からかうような笑みで歩いてきたのはリアンノンだ。ウォーレンは彼女を目の前にし、どんな前置きをしてから打ち明ければいいのか分からなかったので、全部吹っ飛ばして、彼女の正体を告げてみせた。みるみるうちに青くなり、直後に赤くなるなんて彼女の表情は一生のうちでもこの時しか見たことがない。
「……知っていたの?」
「知っていたというか、気付いた。今日、未来の側妃様に会った時に」
「とんでもない人ね。やっぱりあなた、頭が良かったのね。……人畜無害そうな顔にだまされていたわ」
 好かれている自信はあるのだが、一体彼女の中での自分の評価はどういうことになっているんだろう、とウォーレンは少し落ち込んだ。これから一大決心を告げようとしているのに。
「リアンノン、あなたの秘密は守るし、口外だってしない」
「まあ、そうでしょうね」
 信頼されているのかその度胸などないと思われているのか、あまりにあっさり言われて、これはこれで落ち込んだ。
「そういうわけで、同盟だと思ってくれてもいい。身分の違いも、きっとわたしが知ったということで、陛下が後押ししてくれると思う」
 ウォーレンが何を言いたいのか全く分かっていないようで、クエスチョンマークがリアンノンの頭の周りをグルグル回っていた。……こういうところは鈍いのだから、苦労する。意を決して、ウォーレンは半ば叫ぶように言った。

「結婚してください」

 耳たぶの端まで真っ赤になって一言も発せないでいるリアンノンというのも、一生のうちでもこの時しか見たことがない。結局彼女は徐々に実感が戻ってきたのか、ウォーレンが彼女の魂がどこかに飛んでいってしまったのではないかと心配し始めたころになって、目にいっぱいに涙をためると、ウォーレンに抱きついて「お受けします」と言った。


「陛下」
 国王に謁見の申し込みをしたウォーレンは、遠まわしに側妃の正体に気付いたことを含ませた申し込み文章が功を奏して、謁見申し込みから10分後には国王の目の前で膝をついていた。国王の表情にはバレたことに動揺している風情はなかった。はっきり言ってしまえば何を考えているか分からなかった。こういう得体の知れないところがある人なのだ。
「他でもありません、わたしが知ってしまったことを、ご報告にあがりました。他意はございません。口外などする気もございません。ただ、万が一側妃様の件が漏れた場合、わたしを口を割った人物の候補に入れてくださって結構です、と申し上げに参りました」
「……ほう」
 国王は、いっそ面白そうな声を出した。この人はわけが分からない、とウォーレンは内心冷や汗をかく。大物であることには間違いなさそうだが。
「それで、わたしを脅しにきたのではないのか? 口外しない代わりに、欲しいものがあるのではないか?」
 ぶっちゃけて言えばその通りなので、ぐうの音も出なかった。国王相手に強請るのである。我ながら豪胆だ。手も足も震えていた。
「ございます」
「大体予想はつくがな。ギルダが面白そうに話していた」
 ウォーレンは面食らい、思わず許しも出ていないのに顔を上げてしまった。国王はやはり、面白そうな顔をしている。
「申してみよ」
「……とある人を」
 しょうがないので吐露するしかない。
「いただきたいと……」
 言うまでもないが、この願いは通った。どうにも見透かされていた気がしてしょうがないのだが。

 後から聞いた話だが、王妃はリアンノンとウォーレンがちょくちょく会っていることに、薄々気付いていたようだ。それで、まあ男女の密会ということで二人の関係には気付いていたらしい。そして、側妃問題の内情に深くかかわるリアンノンと親しくしているのがウォーレンだと聞いて、国王は「これは気付かれるのも時間の問題かもしれない」と思っていたのだという。
「お前の父や他の人はどうか分からぬが、わたしはお前の能力に気付いているつもりなのでね」
 国王はそういって茶目っ気たっぷりに目配せをしてきた。ウォーレンは褒められたことに喜ぶべきなのか迷いながら、引きつった笑みを返すしかなかった。やっぱりというか、この国王はわけが分からないけれど大物だ。

 家で大騒動になったのも予想の範囲内。結果、ウォーレンは伯爵家を勘当になった。そこは陛下の手配で、新たに子爵位をもらうことになった。基本領地はヴェルハント。ヴェルハント子爵というわけだ。爵位授与に関して陛下が一体まわりにどんな言い訳を使ったのかは、ウォーレンはあえて聞かないことにした。


 王宮で側妃との婚礼が行われ、その一月後にウォーレン自身もリアンノンとの婚礼を行い、新たな邸宅に越して、やっと落ち着いたのもつかの間。男女の双子の子供に恵まれ、まあ性格的にいろいろと悩みの尽きない子供たちではあったが、順調に育ったのもつかの間。クロイツェルの侵略行為とそれに付随する内乱がヘルネイの大反乱という華々しい舞台で幕を閉じたのもつかの間。それが飛び火して、リキニ事件が起きて、オーカストもおちおちしていられなくなったのもつかの間に思えた。


「お父様」
 親ながらどう育て方を間違ったのだろうと思ってしまう娘が、騎士隊の制服を着てウォーレンを振り返る。
「今日はちょっと遅くなるわ。シェーンったら、また夜会ですって」
「そうか」
 ウォーレンは短く返す。なんで年頃の娘が王子の護衛騎士などをしているのかというのは聞かれても困る。本人が選んで歩んだ道なのだから。
 娘、セイリアは母であるリアンノンが亡くなってからも、相変わらずゴーイング・マイ・ウェイのスタイルを貫き通していた。リアンノンもそういう人だったから、娘は母親似である。母親よりさらにパワーは上だな、とは思うが。
 リアンノンと同じ鮮やかな、ペリドットのような色の瞳には、どこまでも勝気で意志の強そうな光が浮かんでいた。そう、敵と見れば予告もなしに拳をお見舞いしそうな光だ。
 そしてかの側妃の息子である王子、シェーンは現在王太子の地位にある。国王もずいぶんな冒険をなさると思ったが、今は水面下で火花が散っているとはいえ落ち着いたように見えるので、まあ問題はないといったところか。
「……お前、王子様とは結局、どうなっているんだ?」
 心配なのはそこだった。側妃の子である王子と、こともあろうことに自分とリアンノンの娘が、なんと意気投合してしまったこと。それだけならまだしも、娘を持つ父親が、現れたことに慌てる存在に王子がなってしまったというのがとてつもなく心配だった。
「どうってなによ」
「だから、将来の話とかは……」
 娘は王子に出会ってから幾分少女らしさを取り戻してくれたようで、頬を赤らめて言った。
「するわけないわよ。あたしはずっと傍にいるつもりだけどね。どんな形でも。構わないでしょう? 家名を継ぐのならアースがいるし」
 それはそうなのだが、問題はそこではないのだ。側妃の子であるのと、リアンノンの子であるというのが問題なのに。
 でもまあ、とウォーレンは考え直す。国王が自ら側妃を選び取り、王妃が自ら側妃を守ることを選び取り、自分がリアンノンを選び取ったのと同じように、娘は王子を、王子は娘を選び取ったのと同じなのだ。自分が口を出さずとも、娘は自分で嵐を巻き起こしながら、何もかも巻き込んで突っ走っていってしまうのだろう。
 なにせ、リアンノンと自分の子だ。
 自分が親として言う言葉は、一つだけだ。

「好きなようにしなさい」
「当然よ」

 喜劇の女神の名を冠した娘は、眩しいくらいの笑顔を放って、扉を閉めた。


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最終改訂 2008.12.08